シュレッド・ビア・カンパニーは、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロックリンに拠点を置く、ザック・フラッシャーとエイミー・ヘラーの2人によるブルワリーだ。タップルーム開業は2023年6月。投資家や外部パートナーを入れず、所有比率は2人で50/50。ホップ前面のIPAから、ピルスナー、メキシカンラガー、樽熟成スタウトまでスタイル幅は広く、開業初年度からGABFで評価され、その後World Beer Cupでも複数のメダルを獲得している。
ナッシュビルで出会い、ロックリンで自分たちのブルワリーを始めた
2人が出会ったのは、テネシー州ナッシュビルで開かれたクラフト・ブルワーズ・カンファレンス(CBC)の会場だった。エイミーは当時カリフォルニア州ロサンゼルス、ザックはカリフォルニア北部に住んでいた。出会いから1年以上は遠距離が続き、その後にエイミーが北カリフォルニアへ移った。自分たちでブルワリーをやりたいという話は、出会った直後から続いていた。
そのまま勢いで踏み切ったわけではない。エイミーもザックも、それぞれ別のブルワリーで現場を任されてきた長い経歴を持つ。ザックはムーンレイカーやスライスで小規模株主・共同経営者として関わった経験があり、外部出資が入った経営の難しさも近くで見てきた。だからこそシュレッドでは、所有比率を2人で50/50に揃え、外部出資を一切入れないと決めた。判断するのは自分たちだけ、という構造を最初に作った。
アウト・オブ・バウンズの設備を引き継ぎ、磨き直して動かす
シュレッドはゼロからの新築ではない。ロックリンで営業していたアウト・オブ・バウンズ・ブリューイング・カンパニーが事業整理に入っており、その設備一式を引き取る形でスタートしている。建物自体は別オーナーが保有していたため、シュレッドが取得したのは設備や什器類である。鍵を受け取ったのは2023年5月末。6月にはタップルームを開け、その後も生産側の整備を進めながら醸造環境を詰めていった。
引き継いだ設備は、開業から約10年が経過していた。骨格はしっかりしていたが、運転状態は本来の水準まで落ちていた。ザックは購入直後から、すべてのタンクの上部にあるカバー類を外し、長年残ったままだったホップの吹きこぼれや乾いた残り滓を取り除いた。続いて、シール類とガスケットを総入れ替えし、ブリューハウス全体を再パシベーション(ステンレスの不働態化処理)に通した。タップルームの内装は塗装と床の再シールにとどめ、本格的な投資はあくまで生産側に振った。
現在のシュレッドのブリューハウスは、15BBL(約1750リットル)のマークス社製2ベッセル仕様。発酵タンクは30BBL(各約3500リットル)4基と45BBL(各約5300リットル)4基を備える。タップルームは約1600平方フィート、つまり約149平方メートルの広さがある。ゼロから新築する時間をかけず、既存設備を磨き直して動かす。それがシュレッドの開業の判断だった。
ブルワリー名「シュレッド」に重ねたカリフォルニアの広がり
ブルワリー名の由来は、家庭の中で自然に使われていた言葉だった。スポーツ・音楽両方で使われるスラングで、共通のニュアンスは、技術を全開にして攻め込むこと。子どもたちがスケートボードに夢中で、自然に『シュレッド』という言葉が家の中で飛び交っていた。ザックは北カリフォルニア、エイミーは南カリフォルニアの育ちで、車で1時間ほど走ればサーフィン、スノーボード、スケートボードに触れられる。複数の遊びをひとつの言葉で指す、カリフォルニアらしい表現として彼らはシュレッドを選んだ。
ラベルは缶ごとに、スケート、スカル、サイケデリック、カンフー映画風など異なるモチーフが並ぶ。一方で各缶の側面には、銘柄名、スタイル、短い説明を必ず置く。棚に並んだときに「これが何のビールか」が読み取れる情報設計を、グラフィックの遊びと両立させている。
ザックのホップ設計、エイミーのセラー管理。2人で完結する醸造体制
シュレッドのビールは、香りが厚いのにフィニッシュがドライで切れる。別のフィールドから来た2人がこの味わいをつくっている。
ザックは2008年にホームブルーから始まった。ニーディープでのインターンで商業ブルワリーの現場を体験し、ホームブルーショップのブリューマイスターで原料と製法を3年間掘り下げた。続いてムラーズ・ブリューイングでミックスファーメンテーションを覚え、ムーンレイカーの立ち上げにヘッドブルワーとして参加し、その後スライスでも4年間ヘッドブルワーを務めた。設備の立ち上げから運用、レシピ設計までを通しでこなしてきた人物である。
エイミーはフレズノ州立大学でエノロジー(醸造科学)を修めたワイン側の出身である。カリフォルニア州ブーンビルでワイン作りに携わった後、家族の事情で南カリフォルニアへ移り、コングリゲーション・ブリューパブでビール側に切り替えた。アメリカン・ブリューワーズ・ギルドを経て、アロー・ロッジ・ブリューイングの立ち上げに加わり、ヘッドブルワーとして7年半勤めた。ワインとビールの両方で、発酵、セラー管理、風味評価を身につけている。
SOPと反復試飲が支える、IPAだけではない幅
シュレッドは小規模ながら、品質管理をかなり徹底している。標準作業手順(SOP)を整備し、CIP(化学洗浄)後のステンレスタンクには、毎サイクル、ナイトリック酸を含むパシベーション処理を行う。「ブルワリーをフェラーリのように扱う」というザックの言葉どおり、設備の磨き上げと再現性に投資を集中する。
2024年時点の情報では、毎週金土、自社ビールと他社ビールを並べて口に含む社内試飲「パンプ・アンド・ダンプ」を行う。ウエストコーストIPAなら同じスタイルを5〜10銘柄並べて、香り、ドライさ、輪郭、ホップの方向性を率直に評価する。エイミーがワインのセンサリーで身につけた目を、ビールに持ち込んでいる。
ホップ選定も独特だ。ヤキマで実物のフラワーをこする現地選定より、サンプルを取り寄せたバーチャル選定が中心。さらに、コラボや友人ブルワリーで「これは効いている」と感じたビールがあれば、使っているロット番号を直接聞き、同じロットを発注する。完成品ベースで効きを確認してから入れるため、フラワー段階の印象と缶の中身がずれにくい。
受賞歴に表れる、開業初年度からの評価
開業から間もない時期から、シュレッドはGABFで評価され、その後World Beer Cupでもメダルを獲得している。2023年のGABFでは、シュレッドが年間生産量0〜250バレル部門の最優秀ブルワリー/ブルワー賞を受賞した。同年と翌年のGABF、そして2024年から2026年のWorld Beer Cupを通して、セッションIPA、ヘイジーダブルIPA、メキシカンラガーなど複数スタイルでメダルが並ぶ。とくにマイクロ・ブラスターとジュース・マスターは、World Beer Cupで連続して金メダルを獲得している。
シュレッドにとって、賞は結果のひとつにすぎない。2人で判断する体制、引き継いだ設備の再整備、SOPと反復試飲、ホップロットの逆引き選定、そしてカリフォルニアの暮らしから取った名前。そうした積み重ねが、受賞歴にも表れている。