キャリア「3つ目のフェーズ」から走り出した、シカゴ郊外の新世代ブルワリー
シカゴから車で1時間ほど北西、イリノイ州レイク・ズーリックの工業エリアに、フェーズ・スリー・ブルーイングはある。Citra100%のヘイジーIPA「ピクセル」シリーズで注目を集め、横型ラガータンクで本格的なラガーまで仕込み、樽熟成インペリアルスタウトでは「ロマンより事実」と言い切るヘッドブルワーが指揮を執る。設立は2019年。Craft Beer & Brewing誌の読者投票「Best in Beer Readers' Choice」に複数年ランクインしている、いまのシカゴ周辺シーンで存在感のある1社だ。
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名前の由来は、3人で歩んだキャリアの「3つ目のフェーズ」
ヘッドブルワーのショーン・バーンズ、その妻でブランドビジュアルを手掛けるブリタニー・バーンズ、そしてオペレーション全般を担うエヴァン・モリス。3人の出会いは、10年以上前にイリノイ州シャンバーグにあったレストラン併設ブルワリー「ラム」までさかのぼる。
ショーンはここで、フロントスタッフから樽の洗浄やタンク磨きといった裏方仕事に手を伸ばし、シカゴの醸造専門校シーベル醸造研究所で学位を取得。アシスタント、ヘッドブルワー、リージョナルブルワーへと駆け上がった。同じ職場でブリタニーはグラフィックデザインの学位を活かしてラベルを描き、エヴァンはレストラン&ブルワリー全体の運営とビールリリースのイベントを取り仕切った。3人の役割分担はここで形になっている。
その後ショーンはイリノイ州ヴィラ・パークの「モア・ブルーイング」に移り、ヘッドブルワーとしてビールのラインナップづくりを担った。ブリタニーは引き続きラベルを担い、エヴァンも後にゼネラルマネージャーとして合流。樽熟成スタウトのリリース日には、シカゴのニュースヘリが上空を旋回し、700〜800人の長蛇の列ができたとショーン自身がポッドキャストで振り返っている。
そして2019年3月、3人は独立を決断する。「フェーズ・スリー」という名前は、ショーン本人いわく「ちょっとふざけた感じ」。ラム時代がフェーズ・ワン、モア時代がフェーズ・ツー、自分たちのブルワリーがフェーズ・スリー。3人で歩んだキャリアの3つ目の章、というそのままの意味だ。
かれらの缶を手に取ると、繰り返し描かれるハチドリが目に入る。これはマーケティング責任者であるブリタニーが手掛けている。
既存ブルワリーの設備を借りるところから、一括買い取りへ
立ち上げ場所は、レイク・ズーリックの工業地帯にあった「レイク・ズーリック・ブルーイング・カンパニー」。ここはすでに醸造設備が稼働中で、すぐに仕込みを始められる状態だった。一方レイク・ズーリック側は事業から距離を置きたいという事情があり、フェーズ・スリーは余っていたタンク2基を3週間ごとに借りる契約醸造から事業を始めた。
数バッチ目にはすでにスタウトを仕込み、評価を得ていく。翌2020年1月、3人は設備を一括で買い取り、リースを引き継いで完全に独立。さらに2021年には建物本体と隣接区画も取得し、自分たちの裁量で増床と設備拡張を進めた。
この同じ場所には、短い期間に複数のブルワリーが入っていた。レイク・ズーリックもそのひとつで、その後をフェーズ・スリーが引き継いだ。その結果、フェーズ・スリーはこの場所で営業する「4年ほどの間で3つ目のブルワリー」になった。
現在の醸造所は約1,950平方メートル。15バレル(約1,750リットル)の3槽式スチームブルーハウス、GEA社の遠心分離機(ビール中の酵母や細かい固形分を遠心力で分ける設備)、CODI製のカウンタープレッシャー(ビールに圧力をかけたまま缶に詰めることで、泡立ちや酸化を抑えやすくします。)缶充填ライン、専門の品質管理ラボを備える。発酵タンクは12基以上に拡張され、約280平方メートルのタップルームには屋外席も併設する。
Citra 100%「ピクセル」を中心に、ヘイジーIPAで広く知られる存在に
フェーズ・スリーの顔は、なんといってもヘイジーIPAだ。フラッグシップのピクセル(Pixel / ヘイジーIPA / ABV 6.5%)は、ピルスナー麦芽、オーツ、ウィートのベースにCitra100%。ライムピール、パッションフルーツ、果肉感のあるグレープフルーツが立ち上がる。Untappdではすでに2万件超のレーティングを集め、平均4.05という高評価で定着している。
2025年5月にはピクセルを核に、米国マサチューセッツ州のトリリアム、スウェーデンのオムニポロ、サンディエゴのノース・パークと組んだリリース「ピクセル・アンド・パルズ・ワールドワイド」も実施。そして2026年5月、ブルホス、パリッシュ、メソレムとのコラボが実現し、当店にも特別に入荷しました。
ヘイジー専門ではない。横型タンクで本格ラガー、樽熟成スタウト
ヘイジーIPAだけのブルワリーではない、というのがフェーズ・スリーの大きな強みだ。
醸造所には30バレル(約3,500リットル)の横型ラガータンクが2基あり、多様なラガースタイルのビールを横型タンクで8週間程度にわたってじっくりコールドコンディショニングしている。
樽熟成インペリアルスタウトのプログラムも強力で、在庫している樽は200本以上。Craft Beer & Brewing誌2021年スタウト特集号で、Eunoia Batch 3(Toasted Marshmallow)が98点と評されている。
ショーンの設計は、ベースとなる麦芽だけに頼らず、特殊麦芽やオーツ、最終比重によって味の厚みと口当たりを設計していく。苦味を抑えながら色やロースト感を出す麦芽 Carafa Special II、口当たりをなめらかにするため約20%のオーツ(フレークと麦芽オーツ併用)、必要なところではドライ麦芽エキス(DME)と乾燥酵母(US-05)を使う。「派手な物語より、毎回再現できることのほうが大事」という姿勢が、レシピの細部に通る。「樽ブレンドはほぼ毎回スプレッドシートを見ながら判断している。ロマンチックじゃない、けどそれが本当のところだ」と語る。
業界誌と読者の評価
Craft Beer & Brewing誌の読者投票「ベスト・イン・ビア・リーダーズ・チョイス(Best in Beer Readers' Choice)」では、2022年に年産10,000バレル未満カテゴリで2位、2023年も小規模カテゴリで上位、2025年には「スモール・リージョナル(Small Regional / 5,000〜25,000バレル)」部門で18位と、複数年にわたってランクインしている。
Untappdでもブルワリー全体の平均評価は4.13、評価数は84万件超、コミュニティアワードは金27 / 銀32 / 銅27(2026年5月時点)。ヘイジーIPA、ラガー、樽熟成スタウトと、それぞれ違うジャンルで注目されていることがわかる。
レイク・ズーリックの本拠地と、エルムハーストのレストラン併設店
本拠地のレイク・ズーリック・タップルームでは、自社の最新リリースを中心に、BBQメニューと一緒に味わえる。2023年8月末には、シカゴ西郊エルムハーストに2号店「フェーズ・スリー・キッチン+タップルーム」をオープン。旧自転車店を改装した約335平方メートルのフルキッチン併設店で、フィリピン料理に着想を得たメニューを提供している。
ヘイジーIPAでファンを増やしながら、ラガーと樽熟成スタウトにも情熱を注いでいる。